記事「日経新聞」 の 検索結果 2563 件
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『愉楽にて』(267~269)「佐々木さんには迷惑のかけっぱなしで、本当に申しわけない」 「迷惑なんてそんな……」 このあいだの食事の時よりも酒を飲むのは、かなりリラックスをしている証拠であろう。 「さあ、刺身が出まし..
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『愉楽にて』(270~272)「美和子さんは、見るからに優等生のお嬢さん、っていう感じですね。不良少女からはいちばん遠いタイプでしょう」 女の呼び名が、姓から下の名前に変わる時。それは突然に訪れる。 「でもね、私も不良少..
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『愉楽にて』(261~263)田口はファリンの肩を抱いた。そして唇を吸う。田口は彼女をソファに誘った。胸の隆起をはっきりと手にとらえた。ボウのリボンを解く。その下に小さなボタンが潜んでいた。苦心してそれを三つほどはずす。が、..
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『愉楽にて』(258~260)「あなたは、中国人以上に運命論者なのね」 「中国人は、運命論者なのかい」 「私たちは風水が大好きなの。そして心のどこかでみんな思っているはずだわ。今のこの繁栄は、あの苦しみがあったからあたり前..
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『愉楽にて』(255~257)「その、君の夫……彼は別れてたくないんだね」 「それは愛情からではないわ。彼はね、私の家と離れたくないの。私の祖父や父とのつながりを断たれるのを怖れているのよ」 「あなたには子どもがいるんだろ..
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『愉楽にて』(243~245)「章ちゃんの相手っていうのは、ちょっと聞いたことがない田舎の女子大なんですって。偏差値を調べたら、BFっていうからびっくりしたわね」 「その、BFっていうのは何なの」 「ボーダーフリー。つまり..
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『愉楽にて』(240~242)「もっと会いとおす。会えないと淋しゅうて淋しゅうてかないまへんぇ……」 左手を田口の股間に伸ばしていく。 「こっちの方のお顔も、久しぶりに見せていただいてよろしおすか」 豆孝の顔が少しず..
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『愉楽にて』(237~238)ややためらったものの、豆孝を下鴨の家に連れてこないわけにはいかなかった。 「やっぱり下鴨のお屋敷いうのは立派どすなあ。いい材木使ってはるのが、しろうと私でもわかりますわ」 「リノベーションっ..
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『愉楽にて』(228~230)茶人としても財界人としても、何かと忙しいはずの福田であったが、茶室開きには喜んできてくれることになった。 福田を正客として、あとは山崎、宇野、前田という稽古仲間となった。久坂はシンガポールか..
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『愉楽にて』(231~233)二人の少女が現れた。驚いた。どう見ても十二、十三歳にしか見えない。 「うちの子どす。ほら、ご挨拶しなさい」 「おたの申します……」 「あの……」 野暮なこととはわかっているが、田口はこ..
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『愉楽にて』(234~236)「ほんまにきついことどしたわ。二カ月どすえ。二カ月」 「夏は母親の具合が悪くってね。暑いうちは用心のために入院させてたんだ。家の進行を見にくるのも、いつも日帰りだったんだ」 それは嘘だ。日帰..
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『愉楽にて』(225~227)第八章 うつろい 十月になるのを待って、田口は下鴨の家の茶室開きをすることにした。 ほとんど使われていなかった茶室にも手を入れた。畳みを変え、壁を塗り替えるぐらいで済んだ。 それよ..