記事「日経新聞」 の 検索結果 2564 件
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『琥珀の夢』(1~3)明治四十年春、花匂う風の流れる船場を堺筋淡路町から西長堀北通りに向かって一人の少年が大事そうに自転車を引きながら歩いていた。頭に被ったカーキ色の帽子と紺色木綿の前垂れで少年がどこかの商店の丁稚だ..
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『迷いの旅籠』(383&384)「その時には、臆せず躊躇わず、この黒白の間から踏み出してください。それだけをお願いしようと思って伺いました」 「はい」 「金太も捨松も、貴女を好いています。貴女がどこへ行かれようと、うるさいほ..
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『迷いの旅籠』(380~382)青野利一郎は、もう、おちかが知っている「若先生」ではなかった。 月代をそり上げ髷を整え、真新しい紋付袴に身を包んだ凛々しい武士がそこにいた。 「本日のあっしは青野様の中間でございます」 ..
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『迷いの旅籠』(377~379)「さあ……もういいわ」 満足そうに微笑んで、お梅は瞼を閉じた。 「亡くなりました」 おちかは静かにそう告げた。 「結局のところ、お梅さんは何者だったんでございましょう」 「何者と..
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日経新聞で7月1日から『琥珀の夢』が連載開始本日の日経新聞に、新しい連載小説の告知が載りました。 琥珀の夢――小説、鳥井信治郎と末裔 伊集院 静 福山 小夜 画 本紙朝刊連載小説、宮部みゆき氏の「迷いの旅籠」は6月30日..
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『迷いの旅籠』(373~376)「わたしは神田の三島屋から参りました。いつぞやお目にかかった、ちかでございます」 その節はありがとうございました―― あの日、黒白の間には紅葉と萩を活け、風変りな秋刀魚の墨絵の軸を掛けてい..
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『迷いの旅籠』(369~372)「これも、母からの伝聞でございます。その母も、自分の耳で聞いたわけじゃございません。美仙屋さんの火事の後、町の噂で聞きかじりましてね。 ――燃えている最中に、女の笑い声がしたというんです。ざま..
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『迷いの旅籠』(366~368)「美仙屋さんが焼ける、三月ばかり前でしたろうか。わたくしの実家で料理人が怪我をしたり、祖母が風邪をこじらせて長いこと寝込んだり、弟の目に繰り返しものもらいができたりして」 気にした父親が、きち..
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『迷いの旅籠』(363~365)どこから申し上げればいいか――と呟く。 「では、こちらから少しお尋ねしましょう。美仙屋さんは確かに香具屋なのですね。お店はどこにあったのでしょうか」 「芝の神明町でございますよ」 勘一が..
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『迷いの旅籠』(359~362)さて、お使い新太を走らせて、何度か松田屋とやりとりをし、首尾よく席をとることができた。葉月(八月)十三日の夕。 「恵比寿屋さんの切符だから、特に席を空けてくれたんでしょうか」 「そんなんじゃ..
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『迷いの旅籠』(355~358)それはどうだろう。おちかは首をひねった。 「駄目でもともとでございます。手前の心当たりの菓子屋を回って、月に一度、朔日にだけ買いに来るお客様の覚えがないか尋ねてみましょう」 甘い物好きの「..
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『迷いの旅籠』(351~353)「よし、そうこなくっちゃ」 富次郎は手を打って喜び、おこしをつまんで口の中に放り込んだ。「さあ、語った語った!」 「――そうして、目が覚めてみたらわたしはここに一人いて、次の間では従兄さんと..