記事「一人芝居」 の 検索結果 89 件
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自作小説「一人芝居」14 第5章 「厭世列車」 (その1)中井は何の疑いもなくその電車に乗り込んだのだった。どこ行きかは確かめなかったが、そのホームに入る電車は、普通でも急行でも特急でも、すべて彼の行こうとしている駅を経由することを知っていたからである。彼..
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自作小説「一人芝居」13 第4章 「統計作り」(その2)赤木由紀子がお茶を配っていたが、まもなく大町の所にもやって来た。「どうぞ」と言いながら机の上に茶碗を置いたが、その時彼の耳元で「今晩よ」とささやいた。彼は由紀子の顔を見ずに、かすかにうなずくことで返..
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自作小説「一人芝居」12 第4章 「統計作り」(その1)ドアから乗客が一斉に吐き出された。大町もその吐瀉物のほんの一部に過ぎなかった。彼は人々の後ろについてゆるゆると出口へ進んで行った。地上への幾つかの上り口に人の流れは分散してゆく。彼も小さな流れとなっ..
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自作小説「一人芝居」11 第3章 「十年の遅れ」 (その4)「結局、人間は孤独な存在なんだから同じことだよ。それより貪欲に生きる方が俺には重要なんだ」 中井が一言一言噛みしめるように言うと、榊原は肩をすくめて、 「俺には妻も子もあるから、おまえのよう..
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自作小説「一人芝居」10 第3章 「十年の遅れ」(その3)「俺は三十才なんだ」 中井はきっぱりとした口調で言った。 「三十才?おまえ、気は確かか。今日のおまえはどうも変だよ」と榊原はいぶかしそうな顔をした。 「気は確かだよ。俺は今、思い出したん..
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自作小説「一人芝居」9 第3章 十年の遅れ (その2)「どうなっているんだ」 彼は自分だけ置き去りにされたような疎外感に襲われ、店内に入ろうかどうかためらった。意を決して入ろうとした時だった。 「中井じゃないか」 呼びかけられて振り向くと、..
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自作小説「一人芝居」8 第3章 十年の遅れ (その1)地下の階段を上り終えた時、中井は外のあまりの明るさに目がくらみ、一瞬立ち止まってしまった。後ろの人があやうく彼にぶつかりそうになり、彼をにらみつけると、そばをすり抜けて行った。 「どうしてこんな..
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自作小説「一人芝居」7 第2章 一万八千回のしぐさ (その2)いつもより二分ばかり遅れていた。彼は足を速めて、いつもの道をたどって行った。大通りに出た。二十メートルぐらい先の信号が青に変わった。 「この信号で渡らなくちゃ、間に合わないぞ」 大町は走り..
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自作小説「一人芝居」6 第2章 一万八千回のしぐさ (その1)ベルの音が次第に大きくなってゆく。大町は「もう少し、もう少し」と自分に甘えながら、なおも布団にくるまっていた。しかし、ベルが耳元に響くようなけたたましい音を鳴らし始めると、もう駄目だった。彼は未練を..
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自作小説「一人芝居」5 第1章 包丁 (その5)中井は駅の入口のそばにある電話ボックスに入り、会社に電話した。 「もしもし、あの、課長ですか。中井です、おはようございます。どうも風邪をひいたらしく熱があるんで、今日は休ませていただきたいんです..
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自作小説「一人芝居」4 第1章 包丁 (その4)エレベーターのドアが開いた。中井は意識が戻ったようにびくっとしたが、幸い誰も乗っていなかった。彼はそれで安心したのか、憑かれたようにしゃべり出した。 「おまえが何者かは知らない。このビルに勤めて..
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自作小説「一人芝居」3 第1章 包丁 (その3)いつも彼が降りる駅に近づいた。ドアが開くと、押し出されるようにしてかなりの人々が降りて行った。 「俺もいつもはこの群れの一人に過ぎないんだ」 電車が動き出した。彼は窓越しにプラットホームを..