記事「小日向定次郎」 の 検索結果 38 件
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『不信者』22/34因果を思ひ知らせる、地獄の鬼の大鎌に刈られて 間違つた不信者はのたうたなければならないのだ。 その鎌の呵責を脱れて淋びしく獨り 閻魔の王座のあたりをうろつかなければならないのだ。 ..
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『不信者』23/34彼處にゐる孤獨な希臘僧《かろやあ》はどう言ふ名前の男なのだ。 彼の顏を私自身の國で前に見たことがある。 それは大分むかしのことだが、あんな勢ひで 馬を飛ばす騎手を私はいまだ嘗つて ..
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『不信者』24/34薄黑い彼の僧衣の頭巾の下にぎろりと光る 眉を寄せた彼のしかめ顏は此の世のものではない。 見開いたあの眼の閃光りを見ると 過ぎ去つた年月がどんなに苦しかつたものかが判る。 その眼の色..
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『不信者』25/34地を引きずる長衣を身の廻りに褶《たく》しあげて 圓柱の立ち並んだ側廊下を彼は歩るいて行く、 他人からは恐怖の目で見られ、自分は憂欝な眼で 此僧院を神聖にする諸々の儀式を見ながら。 ..
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『不信者』26/34にやけた柔弱な男は戀愛に走り勝ちである、 だがそんなのは皆戀愛の數には入らないのだ。 戀愛の苦難を共にするには餘りに臆病だし 絶望と取り組み或は無視するには温順過ぎる。 月日が經つ..
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『不信者』27/34「神父樣、あなたは平和な生涯を過されて來られた、 珠數を爪繰りながら日日夜夜祈祷を捧げて、 若い頃から年寄りになるまでに、誰だつて 罹らずにはすまない一時の病苦を除いては 何の心..
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『不信者』28/34「私は彼女が好きでした、大好きでした。── 好きだとか大好きだとか云ふ言葉しか使へはしませんが、 言葉よりも行爲でその證據を示したのです。 打痕のあるあの刄には血がついてゐます。 ..
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『不信者』29/34冷たい風土の人間の血は冷たい そういふ人達の愛は殆んど愛の名を値しないのです。 ですが私の愛はエトナの火山の炎の胸に 沸き立つ熔岩《らば》の洪水のやうでした。 みやびめの情事《いろ..
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『不信者』30/34「さうです、全く愛は天來の光明です。 人間の卑《ひく》い欲望を地上から除く爲めに 天人達と等分《ひとしなみ》に神《あら》から頒けていただいた あの不滅の火の火花の一つなのです。 ..
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『不信者』31/34「彼女はなくなつて終つても私は生きて居ました。 が、人間としての生き方ではなかつたのです。 私の心には一疋の蛇が絡みついてゐて、 何かと私の思慮を刺戟して爭鬪に驅りたてたのでした。 ..
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『不信者』32/34「今はむかし、もつと靜かだつた時のこと 私の生れ故郷の谷の花咲く木蔭で 心と心が混り合つて愉しかつた頃 一人の友達が有つたのです──今も有りますかしら──。 その友達に送るよう..
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『不信者』33/34「今更想像の閃《ひら》めきなど言つてくださいますな。 いいえ、牧師さん、いいえ、夢ではなかつたのです。 ああ、夢を見る人は先づ眠らなければならないのに 私は目を開けたぎりした、そして泣..