記事「習作」 の 検索結果 78 件
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孤月目が覚めると、病院のベッドにひとり横たわっていた。隣にいるはずの、君はいない。代わりに病室の片隅で、年老いた母が声を殺して泣いていた。 満月の夜、私たちはお互いの手首をロープで結び付け、大潮..
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反流「毎度ーおなじみー、ミカン屋ぁー、ミカン屋でございます」 昼下がりの住宅街を、古びた軽トラックがゆっくりと進んでいる。運転席では、日焼けした顔に無精ひげを生やした青年が、つまらなそうに白煙を吐いて..
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欠片鍵穴に鍵を差し込み、そっと右に回した。ノブに手をかけ、ゆっくりとドアを押し開くと、キィィという小さな軋み音が聞こえた。琢磨は、こんな薄い合板のドアでも重々しい音がするのかと、不思議に感じた。まるでお..
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深淵「行って来まーす!」 元気な声が外まで響き、学生服姿で色黒の少年が飛び出してきた。少年の名は、皆藤琢磨。14歳の中学2年生だ。野球部に所属し、次期エースと目されている、快活で人気者の少年だった。 ..
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春嵐「お弁当、忘れてるわよ」 背後から、母親が声を掛けた。玄関先に腰掛けて、慣れない革靴を履いている少年が、立ち上がって振り向いた。 「今日は、早く帰れるんでしょう。夕食は、玲くんの好きなエビフライ..
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邂逅その1週間後、彼は死んだ。 「おっと、先客がいたな」 屋上のドアを開け、博は呟いた。5月も後半となると、陽射しの強さが応える。しかし、今日のように薄曇で微風が吹く気候は、屋上での昼寝にもっ..
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