記事「PARISINA」 の 検索結果 27 件
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『パリシナ』尚友館版10/21九 彼は躊躇する人に非ず。 彼の宮廷の一室には、 昔よりエステ家の宗領の座する玉坐あり。 彼れこゝに坐し、彼れの貴族及び親兵は周圍に護衛し、 彼れの正面には有罪の一對は立てり。 兩..
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『パリシナ』尚友館版11/21十 物靜かに、色青さめて、又た默して、 パリシナ死罪の宣告を待てり。 あゝ其變化如何にぞや。 昨日までは其の喜ばしき、物言う所の目は、 かゞやく室内に喜びを四周にそゝぎ、 高貴の人..
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『パリシナ』尚友館版12/21十一 彼れ亦彼女の爲めに泣きぬ。 されど其は、彼を見つむる彼女の爲めなり。 彼れたとひ悲哀を感じたりとするも、其悲哀はねむりたり。 彼れ嚴として其額をあげたり。 心は如何に悲哀を自白..
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『パリシナ』尚友館版13/21十二 アゾ公語るらく─ 『昨日までも我は眞に我妻及び我子に敬意を表したり。 然るに今朝《けさ》に至りて此夢は消散せり。 今日《けふ》の日の傾くまでには、我は何ものをも有せざるべし。 ..
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『パリシナ』尚友館版14/21十三 嚴格なるアゾは其面を蔽へり、 これ其前額には血脈高く漲り、 熱血腦に出入して 潮《うしほ》の滿干《みちひ》の如くなりしを以てなり。 故に彼れ暫く其面《をもて》をうつぶき、 震..
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『パリシナ』尚友館版15/21十四 彼れ語り終りて手を組み合はして立ち 縛せる鉄鎖は響きたり。 其鈍重なる鉄鎖の相觸れて響くや、 並み居る凡ての將士の耳には 傷つけられしが如く感ぜざるは一人としてあらざりき。 ..
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『パリシナ』尚友館版16/21十五 寺院の鐘は もの悲しげに徐々と鳴れり。 灰白色の四角なる塔樓に 深き響きを以て鐘は彼方此方に振り動けり。 其響は人の心にいとも重く感ぜらる。 聖歌の聲は聽こゆなり。 これ樓の..
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『パリシナ』尚友館版17/21十六 時はこれ尚ほ─此悲しき日に登りて、 其確乎たる光を以つて此光景を嘲りし所の 夏の太陽の西山に沒する前の いと美はしき時なり。 ヒユーゴー、僧に對して最後の懺悔を爲し、 其悔悟..
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『パリシナ』尚友館版18/21十七 此不義の子にして大怛なる情人の 別れの祈祷はさゝげられたり。 彼れの冥福及び懺悔は、再びこゝにくりかへして祷られたり。 彼れの時は最後の瞬間に來れり、 彼れの上衣は先づはぎ去ら..
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『パリシナ』尚友館版19/21十八 死して閉ぢたる唇の如く靜かに、 觀る者皆な其の呼吸を收めり。 されども死の一撃彼れの頸に下り、 生命も慈愛も此く終りし時、 人々の間には遙かに 寒冷なる電流通じ 寂として聲..
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『パリシナ』尚友館版20/21十九 ヒユーゴーは死せり。 此時より宮殿にも廣間にも、又た園亭にも パリシナの聲も聽かれず、姿も見えざるなり。 パリシナの名は宛も放逸不徳或は恐ろしき言語なるかの如く 人々の口にも耳..
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『パリシナ』尚友館版21/21二十 其後アゾは新に妻とりて 善き兒等は其側に成長せり。 されども墓に凋みし彼れの如く 美にして豪怛なるは一人もあらざりき。 たとひ之れ有りとするも 其成長は、アゾの目にはとまらざ..