記事「幽界通信」 の 検索結果 63 件
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「鴉」 「鵜」 「芽」 (詩集「幽界通信」より)。鴉 海は赤く濁り 波は牙をむいて岸を噛んだ 母は一日中流木を拾っていた 置き去られた子は むしむしする砂にまみれて 喉がかわくと晝顔の露を吸った 高い松の梢に鴉が群れて ..
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「雨夜」 (詩集「幽界通信」より)。晝からの雨が物の影を重く沈ませ 雲間にうすら明りの洩れるような晩 彼はあらわれる いかにもやりきれないと云うように左肩をすぼめて 草叢の邊でゆれている 私が駈けよると ふっと消える ..
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「草」 (詩集「幽界通信」より)。墓にはめったに行かない 墓標を掩って茂った草をぬく時 苦しくなる 彼の弟と私は 最後の身じまいをさせるため ひげを剃った かみそりは時にあやまって彼の頻を傷つけた 魂はまだその邊..
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「茨」 「幽界通信」 (詩集「幽界通信」より)。茨 私ははだしで草地に立った 垣のばらは月光を吸って妖しく濡れた 私は垣をのりこえた 蹠の血は砂地に花びらの烙印を押した 標識燈の光はかすれ 突堤の端に彼が立っていた ..
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「改正道路」 (詩集「幽界通信」より)。星空にひしゃげた家 堀割はなまあたたかく人間の臭氣を漂わせ だだっ廣い改正道路どこまでつづく 掘りおこされたガス管水道管 投げ出された黒い肢体 當爲なき水の噴出 地をゆるがせて..
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「春」 (詩集「幽界通信」より)。身の丈ほどの鮟鱇を 棒に吊るして 二人の男が 通る 鮟鱇の口の洞穴(ほら) 洞穴に傾く 青空 砂地に陽炎 潮のしたたりの 描く S字模様 赤石の残雪の..
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「ある心象」 (詩集「幽界通信」より)。枝を揉む松 粟立つ砂 濁れる河あふれ 葦の若芽を埋め ともされぬ突堤の灯 棄てられた魚に群れる鴎 汚れたさくら 汚れたさぐら 花びらのつぶて 欝情の海膨れ 灰..
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「默契」 (詩集「幽界通信」より)。盛りあがった砂丘の胸に 數本の小松が生えていた 海はきらきらと輝き 波は白い歯を出して笑った 小松は若緑の葉を嬉々としてそよがせ 波に目くぼせした 海はうなずき 大..
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「鼠群」 「挿話」 (詩集「幽界通信」より)。鼠群 古い街はとりはらわれた 穴ぐらの闇をつかむ鐵骨 人工の曠野にポツネンのこされた デパートのてっぺんに 黄色い月があがる ふるさとを追われた 鼠群..
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「すずめ蛾」 (詩集「幽界通信」より)。むせかえりながらふと覚めて 顔に掩いかかる邪魔ものをふり拂った 仰向けにもがいていたが ぱたり起きかえると 一匹のすずめ蛾だ 彼はすが目でじろりねめまわして 云った こ..
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「暗い海」 「遮断機」 (詩集「幽界通信」より)。暗い海 堀割に 濁流はくねりあふれ 道のなかばを浸している 女は待っている 傘をさして佇んでいる きのこのようにしゃがんでいる 濁流をみつめている 軒燈のくるめきをよぎり..
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「顏」 (詩集「幽界通信」より)。両の手で掩いかくしても眼は見てはならぬものをみつめようとし 口は不埒なことをわめこうとするので 私は顏を草原にふり棄てた ひきはがれた顏の下から従順な家畜の顏が生えた 私は風のなび..