記事「長篇」 の 検索結果 132 件
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企鵝(きが)の翼 十七(一)目が覚めた時、時計は午後三時を回っていた。 慌てて飛び起きて階下へ下りると、丁度玄関を入って来た高槻と降矢に出くわした。 「やあ、良く眠れた?」 「あ、はい」 「ここ、涎付いてるよ」 ..
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企鵝(きが)の翼 十六(四)庁用車で送られ、柚木崎邸に戻ったのは午前六時だった。 すっかり夜は明け、夏の太陽が早くも地面をじりじりと焦がしている。 「柚木崎家の方々には、既に電話で連絡して有ります。恐らく午後にでも、改め..
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企鵝(きが)の翼 十六(三)「ああ全く鬱陶しいな、高槻!」 「はい!」 高槻は慌てて壁から離れ、降矢の元に駆けつける。哲馬も、その後に続いた。 「この阿呆探偵に説明してやれ。面倒は好かん!」 「あ、はい」 高槻は手..
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企鵝(きが)の翼 十六(二)長い廊下を歩いて三つの扉を通り過ぎ、突き当たりの部屋に入った。 白い壁に褐色の床というシンプルなデザインの室内には、ダブルサイズのベッドが置かれている。如何やら宇敷の寝室らしい。部屋の彼方此方に..
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企鵝(きが)の翼 十六(一)哲馬は――夢を見ていた。 何も無い空間を、ゆっくりと歩いている。上下左右は全て黒い闇に包まれ、何処へ向かっているかも分からない。 誰かが、両手を同時に引っ張った。目を転じると、左右に幼い眞人..
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企鵝(きが)の翼 十五(五)眞砂の要望により、桐ヶ谷が学生時代の逸話やら動物に関する薀蓄やらを披露した為に、夕食時間は大幅に長引き、漸く客間へ戻る頃には十時を回っていた。 「眞人君は、未だ帰らないようですね――」 突き当..
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企鵝(きが)の翼 十五(四)「まあ、桐ヶ谷先生!」 突然の訪問に目を輝かせた眞砂は、一瞬後に噴き出した。 「おや、如何かしましたか」 「だって先生ったら、そのTシャツちっとも似合ってないわ」 哲馬の貸したTシャツは、..
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企鵝(きが)の翼 十五(三)はっきり言って、哲馬もハードウェアには明るくない。パソコンを一通り使いこなす事は出来ても、一度障害が起こればお手上げだ。哲馬の持つ知識は全て、椋の受け売りに過ぎない。 「じ……じゃあ誰かがデータを..
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企鵝(きが)の翼 十五(二)「さて、本題に入りましょう。立ち話も何ですから、先ずは椅子を確保しましょうか」 隣の客間から椅子を運び入れ、円卓を中心に三つ並べた。哲馬はその中央に、先程預かった羅紗紙の包みを置いた。桐ヶ谷は手袋..
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企鵝(きが)の翼 十五(一)時刻は午後五時――。 室内は暗く、水底のように沈んでいる。先程から雷雨が降り始めたのだ。 窓を打つ激しい雨音が、辺りに響き渡る。哲馬は自室で一人、桐ヶ谷の到着を待っていた。桐ヶ谷の滞在に就い..
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企鵝(きが)の翼 十四(三)その時、突然足元から振動が響いた。 二人が同時に目をやると、間も無く扉が開き、蜂谷の肉付きの良い顔が覗いた。 「あらまあ、御使用中でしたか。大変失礼致しました」 「いいえ大丈夫ですよ、蜂谷さ..
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企鵝(きが)の翼 十四(二)「ところで、哲馬様は此方で何を? 霊能者と仰るのは、こんな場所まで調べるのもお仕事なんですか」 含み笑いでそう尋ねられ、内心冷や汗を流す。桐ヶ谷のように、堂々と嘘を吐かないで回答する余裕は、とても..