記事「小説」 の 検索結果 36249 件
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踏切から(二)ぼくはいつもリサに翻弄された。待ちあわせてもすっぽかされたり、挑発されてその気になって嘲笑されたりといったことはよくあった。けれどもぼくはリサに恨みをもつことはなかった。 あ..
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踏切から(一)遮断機のおりた踏切の前に立ち警報器の単純な連打を聞いていると、遠い昔の思い出がよみがえってくる。 あの頃、なにがどうなったのか、出来事の細部はもう霞がかって曖昧になってし..
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小笛小笛という名は父の重吉がつけた。 重吉は笛が好きだった。はじめての我子に、重吉は自分の最も好きなものの名前を付けたのだった。 まだ独り身のころ、重吉は村名主の募兵に応じて、物..
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子守唄金曜日の朝、すでに起床時刻を20分過ぎていた。アラ-ムが聞こえなかったわけではなかった。起きる気力がわかなかった。ともすればまどろみのなかで意識は浮き沈みした。疲れがたまっていたのだ..
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歪んだ鏡(五)明日から仕事がはじまる。ヨ-コとは食事を終えてから別れた。 アパ-トにもどり入浴してすぐベッドに入った。 夢を見ていることがわかった。ヨーコの部屋のまどろみのなかで見た夢と同..
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歪んだ鏡(四)昼食をとるため駅前の蕎麦屋に入った。店は建ってまだ日も浅く木の香りがした。十年前にここにどんな建物が立っていたか思い出せなかった。 壁際に二人掛けのテ-ブルがならび、中央に四人掛..
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歪んだ鏡(三)ヨーコは上気して胸を弾ませていた。 「オレのあとをつけていたのか」 自由が丘の駅の近くのショウウィンドウの鏡に映った濃い影が、少しずつ薄れて、ビルの角から長い髪をふり乱し細く切..
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歪んだ鏡(二)真新しい二階建ての家があった。駅の裏側の広大な敷地にある石灰工場の会長の家だった。石灰岩の発掘現場は西側の山の中腹にあった。町から見上げると灰色の巨大な損傷部はまるで山が一挙に瓦解するまえの..
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歪んだ鏡(一)土曜日の午後、アパ-トを出た。空はどんよりと曇っていまにもひと雨きそうだった。 すこし歩いてから、カサを取りに戻ろうかと立ち止まった。今日の天気予報はどうだったろう。薄い雲の下を黒々..
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春の夢わたしは深夜散歩に出た。 薬がきかなかった。お酒も就眠の助けにはならなかった。次から次へと妄想が頭をよぎった。早すぎる時間の流れに終止符をうつために、どうとでもなれという気持ちで..
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鳥になるふと目を覚ました。電車の中だった。 乗客はまばらだった。携帯電話にみいっているひと、居眠りをしているひと、文庫本に読みふけっているひと、混雑の時間帯をはずれているのだろう。とても静かだ。腕時..
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藤棚の下にて縁台は半ば池に突きだして藤の花房は下垂して風にかすかに揺らめいていた。その先にのぞく池面もまた紫色の花びらをしきつめており、わずかにかいまみえる石垣や垣根の草のまばらな木立の隙..