記事「日経新聞」 の 検索結果 2564 件
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『迷いの旅籠』(45~47)「あの絵師の先生、いつもにったらにったら笑ってて、変な人だよ」 おたまを急き立てて歩きながら、しかし、おつぎはふと不安を覚えた。惣太郎さんは、ふだんは小作人たちに優しい人だ。なのに、さっきは本..
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『迷いの旅籠』(41&42)「ご隠居様はお歳でな、身体が弱っておられたんだけども、おつむりの方もだいぶ忘れっぽくなったり、ときどきわけのわからないことをおっしゃったりしてたんだよ。それでな、奥様がご隠居様を嫌がって、名主様に..
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『迷いの旅籠』(39&40)「何が可笑しい?」 「だって先生、おらのうちなんか、茶碗とかみんな縁が欠けてるよ」 「それは少々意味合いが違うがな」 「名主様の奥様は江戸からお嫁の来た人だから、そういうしきたりをご存じかも..
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『迷いの旅籠』(35&36)「ご隠居様が離れ家にこもっていらしたのは、半年ぐらいのあいだです。おっかちゃんとおなっちゃんは代わる代わる通ってましたけど、ご隠居様は一日、赤子みたいによぉくお寝みになってるって言ってました」 ..
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『迷いの旅籠』(37&38)おつぎは藪を手で払いながら土間の裏手へ回っていって、上の方を仰いだ。 「煙抜きが塞がってる」 「風雨が吹き込まないようにしたのだろう。まず私が入って、どこか雨戸を開けてこよう」 「先生、灯..
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『迷いの旅籠』(33&34)「先生、名主様のご隠居様の離れ家に行きなさりたいんですか」 「ふむ、やっぱりおまえは知っているんだね。おまつさんの言うとおりだったなあ。 私は、小森神社にお参りに行ったとき、下藪のなかを細々..
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『迷いの旅籠』(30~32)神無月も十日を過ぎると、小森村のあたりでも朝夕は冷える。 「先生、羽織をお持ちになった方がええです」 「おや、そうかい」 じゃあ半纏を借りていこうと、絵師は言った。 「村長に聞いた..
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『迷いの旅籠』(27~29)「お嬢さん、ホント言うとね、おらね。おとっちゃんとの話を聞いてるうちは、喪中ってことがよっくわからねかったんです。村じゃ。誰か死んで葬ったら、すぐ田圃や畑に出ますから」 「そうでしょうねえ」 ..
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『迷いの旅籠』(25&26)「でも、一のお殿様が――」 「だから、二のお殿様と三のお殿様からお取りなししてもらえっように、名主様がこれから骨を折ってくださるんだぁ。 だがな、おつぎ――一平もよく聞け。 わしらがお殿..
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『迷いの旅籠』(22~24)「ああ、顔料、採りけぇ」 「うん、たんと採れたよ」 「そぉか」 おまつは、どんどん先へ行ってしまう余野村の村長の背中に目を投げた。 「あんたらは、早く帰って――」 おまつは汗を拭い、..
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『迷いの旅籠』(19~21)おなつが死ぬと、ささやかな弔いさえ済まないうちに、おたまは図々しく一平につきまとうようになり、おつぎの前でも姉さん面をし始めた。村で一平につり合いそうな娘はほかにもいるが、悟作たちの住まいは小作..
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『迷いの旅籠』(17&18)刈り入れが済んだ田圃を、秋風が渡ってくる。 空は青い。でも、もう眩しくはない。 「おつぎ、嫌だねえ、あんた、うるしを摘んできちゃったよ」 後ろで、おたまが甲高い声をあげた。 「そんな..