記事「一人芝居」 の 検索結果 94 件
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自作小説「一人芝居」19 第6章 「独身者のひがみ」 (その2)「三橋か。あいつも結婚してから付き合いが悪くなってしまったなあ」と田代が言った。 「君はあいつと同期なんだろ」と井上が田代に訊いた。 「そうです。しかし、正直言って、あいつに先を越されたという..
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自作小説「一人芝居」18 第6章 「独身者のひがみ」 (その1)「三橋君、愛妻弁当はいいね」 大町は隣りの机で弁当の蓋を開けようとしている三橋をからかった。三橋も負けてはいなかった。 「そうですよ。でもね、先輩、この良さは体験者でないと分からないもんな..
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自作小説「一人芝居」17 第5章 「厭世列車」 (その4)「世話を焼かせる奴だ。もうこれでじたばたできないだろう。しばらくしたら車内に催眠ガスが流れてくる手はずになっている。そのガスでみんな意識朦朧となった時に、すべての決着がつくんだ。最後の最後まで意識が正..
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自作小説「一人芝居」16 第5章 「厭世列車」 (その3)車掌が駆けつけてきた。 「こら、やめろ」 中井は車掌の前につかつかと歩み寄ると、悲壮な表情で、 「間違ってこの電車に乗ってしまったんです。降ろしてください」と訴えた。 車掌は首を..
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自作小説「一人芝居」15 第5章 「厭世列車」 (その2)「おばあさんはこの電車でどこへ行くつもり」 中井はミカンをもらった手前、老女に優しく振舞わねばならないと思って、便宜的にこう尋ねたのだが、老女は変な顔をして、 「どこへって、決まっとるやないか..
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自作小説「一人芝居」14 第5章 「厭世列車」 (その1)中井は何の疑いもなくその電車に乗り込んだのだった。どこ行きかは確かめなかったが、そのホームに入る電車は、普通でも急行でも特急でも、すべて彼の行こうとしている駅を経由することを知っていたからである。彼..
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自作小説「一人芝居」13 第4章 「統計作り」(その2)赤木由紀子がお茶を配っていたが、まもなく大町の所にもやって来た。「どうぞ」と言いながら机の上に茶碗を置いたが、その時彼の耳元で「今晩よ」とささやいた。彼は由紀子の顔を見ずに、かすかにうなずくことで返..
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自作小説「一人芝居」12 第4章 「統計作り」(その1)ドアから乗客が一斉に吐き出された。大町もその吐瀉物のほんの一部に過ぎなかった。彼は人々の後ろについてゆるゆると出口へ進んで行った。地上への幾つかの上り口に人の流れは分散してゆく。彼も小さな流れとなっ..
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自作小説「一人芝居」11 第3章 「十年の遅れ」 (その4)「結局、人間は孤独な存在なんだから同じことだよ。それより貪欲に生きる方が俺には重要なんだ」 中井が一言一言噛みしめるように言うと、榊原は肩をすくめて、 「俺には妻も子もあるから、おまえのよう..
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自作小説「一人芝居」10 第3章 「十年の遅れ」(その3)「俺は三十才なんだ」 中井はきっぱりとした口調で言った。 「三十才?おまえ、気は確かか。今日のおまえはどうも変だよ」と榊原はいぶかしそうな顔をした。 「気は確かだよ。俺は今、思い出したん..
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自作小説「一人芝居」9 第3章 十年の遅れ (その2)「どうなっているんだ」 彼は自分だけ置き去りにされたような疎外感に襲われ、店内に入ろうかどうかためらった。意を決して入ろうとした時だった。 「中井じゃないか」 呼びかけられて振り向くと、..
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自作小説「一人芝居」8 第3章 十年の遅れ (その1)地下の階段を上り終えた時、中井は外のあまりの明るさに目がくらみ、一瞬立ち止まってしまった。後ろの人があやうく彼にぶつかりそうになり、彼をにらみつけると、そばをすり抜けて行った。 「どうしてこんな..