記事「上田城」 の 検索結果 116 件
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第三章-5-しとしとと細い雨が降る。 春の雨は荒れはしないがいつまでも続き、人々の心を沈ませる。 埋められた密書については、あれ以上のことは何もわからなかった。 ただ、六月二日に本能寺で何かがあるだ..
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第三章-4-佐助が持ち帰った密書は、上田城を大騒ぎさせるには十分な代物だった。 昌幸はすぐに忍び衆を使い、塚という塚、ほかにも目印に仕えそうな建物や樹木を調べさせた。 人海戦術は功を奏し、他に五枚の密書..
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第三章-3-上田城に戻ったはずの佐助が突然目の前に現われて、源次郎は飛び上がるほどに驚いてしまった。多分、塀か木の枝から源次郎めがけて跳躍したのだろうが、慣れていない源次郎には降って沸いたように感じたのだ。 ..
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第三章-2-真夜中にまだ冷たい夜の空気が流れ込んできて目が覚める。 首をめぐらせると、部屋の隅で佐助が膝を抱えて座り込んでいた。 「佐助……また……」 源次郎は体を起こして溜め息をついた。 上田城..
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第三章-1-上田の庄は何も変わらず平和そうに見えた。 その年の冬は比較的穏やかで、春の訪れも早かった。寒さで倒れる人も少なく、冷害用の備えも底をつくことなく、余裕のある越冬だった。 村人達も笑顔で雪融け..
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第二章-11-案じられていた通り、翌朝から源次郎は高い熱を出した。 最初はふもとの医者が呼ばれたが、すぐに上田城からも医者がやってきた。 けれど暖かくして、栄養のあるものを食べさせて休ませるより他に治療も..
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第一章-14-織田信長軍はじわりじわりと勢力を広げていた。 今はまだ東への侵略はないし、一応の恭順は示しているので、上田城に攻め入られることはないが、遠征に出て行かなければならないことは増えていた。 上田..
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第一章-13-「農地と山間地の気温差があって雪融けが遅いと、急に暖かくなったときに鉄砲水がでる危険が高いそうです。五十年ほど前、川の堤が決壊し、一つの村の半分ほどが沈んだことがあったそうです」 農夫から聞いた話..
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第一章-12-厳寒の冬は長く続き、ようやく雪が融け始めた。その頃から上田の周りでもめまぐるしく情勢が動き始めていた。 ようやく外で遊べるとばかりに源次郎たちが出かけようとするが、昌幸はやんわりとそれを止めた。..
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第一章-11-源次郎は六歳になった。 その年は雪が深く、民の暮らしはなかなか困難なものになっていた。 城の中でも寒さは厳しくて、源次郎は鼻の頭を赤くし、手をこすり合わせながら勉学に取り組んでいた。 勉..
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第一章-10-ずどんという重い音と火薬の臭いを残して、筧十蔵の撃った鉄砲は、真っ直ぐに的の中心を撃ち抜いた。 十蔵の斜め後ろからその様子を見ていた源次郎は目を見開いて、はっと気付いたように両手をぱちぱちと打ち..
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第一章-9-源次郎はよく武将達の集まりにももぐりこんでいた。 軍議に同席することはさすがに許されなかったが、その後の宴会や、普通の集まりにはちょくちょく顔を出して、厳つい武将達の膝に座り、彼らの話を聞いてい..