記事「太宰治」 の 検索結果 859 件
-
乞食学生 第2回(8)茶店に到着して、すなわち床几《しょうぎ》にあぐらをかいて、静かに池の面に視線を放ち、これでよし、と再び残忍な気持でほくそ笑んだところ迄は上出来であったが、それからが、いけなかった。私がおしるこ二つ、と..
-
乞食学生 第2回(7)若い才能と自称する浅墓《あさはか》な少年を背後に従え、公園の森の中をゆったり歩きながら、私は大いに自信があった。果して私が、老いぼれのぼんくらであるかどうか、今に見せてあげる。少年は、私について歩いて..
-
乞食学生 第2回(6)私も危く大笑いするところであったが、懸命に努めて渋面を作り、 「ごまかしては、いかん。君は今、或る種の恐怖を感じていなければならぬところだ。とにかく、僕と一緒に来給え。」ともすると笑い出しそうになっ..
-
乞食学生 第2回(5)見ると、彼は、いつのまにやら、ちゃんと下駄をはいている。買って間も無いものらしく、一見したところは私の下駄より、はるかに立派である。私は、なぜだか、ほっとした。救われた気持であった。浅間《あさま》しい..
-
乞食学生 第2回(4)「ああ、陸の上は不便だ。」少年はアンダアシャツを頭からかぶって着おわり、「バイロンは、水泳している間だけは、自分の跛《びっこ》を意識しなくてよかったんだ。だから水の中に居ることを好んだのさ。本当に、本..
-
乞食学生 第2回(3)「怒ったのかね。仕様がねえなあ。弱い者いじめを始めるんじゃないだろうね。」 言う事がいちいち不愉快である。 「僕のほうが、弱い者かも知れない。どっちが、どうだか判ったものじゃない。とにかく起きて..
-
乞食学生 第2回(2)少年は草原に寝ころび眼をつぶったまま、薄笑いして聞いていたが、やがて眼を細くあけて私の顔を横眼で見て、 「君は、誰に言っているんだい。僕にそんなこと言ったって、わかりやしない。弱るね。」 「そうか..
-
乞食学生 第2回(1)決意したのである。この少年の傲慢《ごうまん》無礼を、打擲《ちょうちゃく》してしまおうと決意した。そうと決意すれば、私もかなりに兇悪酷冷の男になり得るつもりであった。私は馬鹿に似ているが、けれども、根か..
-
乞食学生 第1回(6)「ちえっ、外国人の名前だと、みんな一緒くたに、聞いたような気がするんだろう? なんにも知らない証拠だ。ガロアは、数学者だよ。君には、わかるまいが、なかなか頭がよかったんだ。二十歳で殺されちゃった。君も..
-
乞食学生 第1回(5)「あぶないんだ。この川は。泳いじゃ、いけない。」私は、やはり同じ言葉を、けれども前よりはずっと低く、ほとんど呟《つぶや》くようにして言った。「人喰い川、と言われているのだ。それに、この川の水は、東京市..
-
乞食学生 第1回(4)聞き覚えのある声である。力あまって二三歩よろめき前進してから、やっと踏みとどまり、振り向いて見ると、少年が、草原の中に全裸のままで仰向けに寝ている。私は急に憤怒《ふんぬ》を覚えて、 「あぶないんだ。..
-
乞食学生 第1回(3)私は、もちろん驚いた。尻餅《しりもち》をつかんばかりに、驚いた。人喰い川を、真白い全裸の少年が泳いでいる。いや、押し流されている。頭を水面に、すっと高く出し、にこにこ笑いながら、わあ寒い、寒いなあ、と..