記事「太宰治」 の 検索結果 859 件
-
乞食学生 第4回(3)「何を言ってやがる。相変らず鼻持ちならねえ。」と佐伯が小声で呟いたのを、障子のかなたから聞き取った様子で、 「その鼻のことです。私は鼻を虫に刺されました。こんな見苦しい有様で、初対面のおかたと逢うの..
-
乞食学生 第4回(2)「どなた? 佐伯君、一緒の人は、誰ですか?」 「知らない。」佐伯は、当惑の様子であった。 私は、まだ佐伯に私の名前を教えていなかったのである。 「木村武雄、木村武雄。」と私は、小声で佐伯に教え..
-
乞食学生 第4回(1)[#ここから2字下げ] ワグネル君、 正直に叫んで、 成功し給え。 しんに言いたい事があるならば、 それをそのまま言えばよい。(ファウスト) [#ここで字下げ終わり] 「はい。」とい..
-
乞食学生 第3回(8)「じゃ、これから君は、どうするつもりなんだい。わかり切った事じゃないか。いつまでも、川で泳いでいるつもりなのか。帰るより他は無いんだ。元の生活に帰り給え。僕は忠告する。君は、自分の幼い正義感に甘えてい..
-
乞食学生 第3回(7)「それじゃ君は、映画の説明が出来るかね?」少年と私とは、先刻から、視線を平行に池の面に放って、並んで坐ったままなのである。 「映画の説明?」 「そうさ。娘が、この春休みに北海道へ旅行に行って、そう..
-
乞食学生 第3回(6)「ほのかな恋愛かね。」私は、いい加減な事ばかり言っていた。 「ばか言っちゃいけない。」少年は、むきになった。「僕には、プライドがあるんだ。このごろ、だんだんそいつが、僕を小使みたいに扱って来たんだよ..
-
乞食学生 第3回(5)「言ってみたって、どうにもならんけど、このごろ僕は、目茶苦茶なんだよ。中学だけは、家のお金で卒業できたのだけれど、あとが続かなかったんだ。貧乏なんだよ。僕は数学を、もっと勉強したかったから、父に無断で..
-
乞食学生 第3回(4)「秩序って言葉は、素晴しいからなあ。」少年は、私の拒否を無視して、どんぶりを片手に持ったまま、ひとりで詠嘆の言葉を発し、うっとりした眼つきをして見せた。「僕は、フランス人の秩序なんて信じないけれど、強..
-
乞食学生 第3回(3)少年は、くすと笑って、それから素直に鼻をかんで、 「なんと言ったらいいのかなあ。へんな気持なんだよ。親爺《おやじ》を喜ばせようと思って勉強していても、なんだか落ちつかないんだよ。五次方程式が代数的に..
-
乞食学生 第3回(2)その時には、私は、ただ困った。何事も知らぬ顔して、池のほうへ、そっと視線を返し、自分の心を落ちつかせる為に袂から煙草《たばこ》を取出して一服吸った。 「僕の名はね、」あきらかに泣きじゃくりの声で、少..
-
乞食学生 第3回(1)茶店の老婆が、親子どんぶりを一つ、盆《ぼん》に捧げて持って来た。 「食べたら、どうかね。」 少年は、急に顔を真赤にして、「君は? 食べないの?」と人が変ったようなおどおどした口調で言って、私の顔..
-
乞食学生 第2回(9)私は、溜息をついた。なんと言われても、致しかたの無いことである。私は急に、いやになった。こんなに誇りを傷つけられて、この上なにを少年に説いてやろうとするのか。私は何も言いたくなくなった。 「君は、学..