記事「太宰治」 の 検索結果 859 件
-
女の決闘 第4章(5)その刹那《せつな》に周囲のものが皆一塊になって見えて来た。灰色の、じっとして動かぬ大空の下の暗い草原、それから白い水潦《みずたまり》、それから側のひょろひょろした白樺の木などである。白樺の木の葉は、こ..
-
女の決闘 第4章(4)それから二人で交る代る、熱心に打ち合った。銃の音は木精《こだま》のように続いて鳴り渡った。そのうち女学生の方が先に逆《のぼ》せて来た。そして弾丸が始終高い所ばかりを飛ぶようになった。 女房も矢張り..
-
女の決闘 第4章(3)私の知った事でない。もうこうなれば、どっちが死んだって同じ事だ。二人死んだら尚更《なおさら》いい。ああ、あの子は殺される。私の、可愛い不思議な生きもの。私はおまえを、女房の千倍も愛している。たのむ、女..
-
女の決闘 第4章(2)ああ、決闘やめろ。拳銃からりと投げ出して二人で笑え。止《よ》したら、なんでも無いことだ。ささやかなトラブルの思い出として残るだけのことだ。誰にも知られずにすむのだ。私は二人を愛している。おんなじよう..
-
女の決闘 第4章(1)決闘の勝敗の次第をお知らせする前に、この女ふたりが拳銃を構えて対峙《たいじ》した可憐陰惨、また奇妙でもある光景を、白樺《しらかば》の幹の蔭にうずくまって見ている、れいの下等の芸術家の心懐に就《つ》いて..
-
女の決闘 第3章(4)すぐつづけて原作は、 『この森の直ぐ背後で、女房は突然立ち留まった。その様子が今まで人に追い掛けられていて、この時決心して自分を追い掛けて来た人に向き合うように見えた。 「お互に六発ずつ打つ事に..
-
女の決闘 第3章(3)粗末な夕食の支度にとりかかりながら、私はしきりに味気なかった。男というものの、のほほん顔が、腹の底から癪《しゃく》にさわった。一体なんだというのだろう。私は、たまには、あの人からお金を貰った。冬の手..
-
女の決闘 第3章(2)私はあさましく思い、「あなたよりは、あなたの奥さんの方が、きっぱりして居るようです。私に決闘を申込んで来ました。」あの人は、「そうか、やっぱりそうか。」と落ちつきなく部屋をうろつき、「あいつはそんな..
-
女の決闘 第3章(1)女学生は一こと言ってみたかった。「私はあの人を愛していない。あなたはほんとに愛しているの。」それだけ言ってみたかった。腹がたってたまらなかった。ゆうべ学校から疲れて帰り、さあ、けさ冷しておいたミルク..
-
女の決闘 第2章(7)薄ら寒い夏の朝である。空は灰色に見えている。道で見た二三本の立木は、大きく、不細工に、この陰気な平地に聳《そび》えている。丁度森が歩哨《ほしょう》を出して、それを引っ込めるのを忘れたように見える。そ..
-
女の決闘 第2章(6)『翌朝約束の停車場で、汽車から出て来たのは、二人の女の外には、百姓二人だけであった。停車場は寂しく、平地に立てられている。定木で引いた線のような軌道がずっと遠くまで光って走っていて、その先の地平線のあ..
-
女の決闘 第2章(5)もとよりこれは嘘であります。ヘルベルト・オイレンベルグさんは、そんな愚かしい家庭のトラブルなど惹き起したお方では無いのであります。この小品の不思議なほどに的確な描写の拠って来るところは、恐らくは第一..