記事「太宰治」 の 検索結果 915 件
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乞食学生 第5回(3)「君はくだらない奴だね。」と私は、思ったままを、つい言ってしまった。 「ああ、そうさ。」すぐに、はね返して寄こすのである。「だから、はじめから、言ってるじゃねえか。説教なんか、まっぴらだって言ったじ..
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乞食学生 第5回(2)佐伯は、黙って一歩、私に近寄った。私は、さらに大いに笑った。佐伯は、ナイフを持ち直した。その時、熊本君は、佐伯の背後からむずと組み附いて、 「待って下さい。」と懸命の金切り声を挙げ、「そのナイフは、..
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乞食学生 第5回(1)私は暫《しばら》く何も、ものが言えなかった。裏切られ、ばかにされている事を知った刹那《せつな》の、あの、つんのめされるような苦い墜落の味を御馳走された気持で、食堂の隅の椅子に、どかりと坐った。私と向い..
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乞食学生 第4回(8)三人は、下宿を出て渋谷駅のほうへ、だらだら下りていった。路ですれちがう男女も、そんなに私の姿を怪しまないようである。熊本君は、紺絣《こんがすり》の袷《あわせ》にフェルト草履《ぞうり》、ステッキを持って..
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乞食学生 第4回(7)「かまわない。大丈夫だ。」私は頑張った。「こんな学生を、僕は、前に本郷で見た事があるよ。秀才は、たいてい、こんな恰好《かっこう》をしているようだ。」 「帽子が、てんで頭にはいらんじゃないか。」佐伯は..
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乞食学生 第4回(6)「待て、待て。」私も立ち上って、佐伯を引きとめた。「君には、帰るところは無い筈だ。熊本君だって、制服を貸さないとは言ってないんだ。君は、だだっ子と言われても仕様が無いよ。」 熊本君は、私が佐伯をや..
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乞食学生 第4回(5)「制服と帽子? あの、僕の制服と帽子ですか?」熊本君は不機嫌そうに眉《まゆ》をひそめ、それから、寝ころんでいる佐伯のほうに向き直って、「佐伯君、僕は不愉快ですよ。僕を、あまり軽蔑しないで下さい。いった..
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乞食学生 第4回(4)私は部屋の隅にあぐらをかいて坐って、二人の様を笑いながら眺めていたが、なんだかひどく熊本君が可哀想になって来て、 「里見八犬伝は、立派な古典ですね。日本的ロマンの、」鼻祖と言いかけて、熊本君のいまの..
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乞食学生 第4回(3)「何を言ってやがる。相変らず鼻持ちならねえ。」と佐伯が小声で呟いたのを、障子のかなたから聞き取った様子で、 「その鼻のことです。私は鼻を虫に刺されました。こんな見苦しい有様で、初対面のおかたと逢うの..
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乞食学生 第4回(2)「どなた? 佐伯君、一緒の人は、誰ですか?」 「知らない。」佐伯は、当惑の様子であった。 私は、まだ佐伯に私の名前を教えていなかったのである。 「木村武雄、木村武雄。」と私は、小声で佐伯に教え..
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乞食学生 第4回(1)[#ここから2字下げ] ワグネル君、 正直に叫んで、 成功し給え。 しんに言いたい事があるならば、 それをそのまま言えばよい。(ファウスト) [#ここで字下げ終わり] 「はい。」とい..
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乞食学生 第3回(8)「じゃ、これから君は、どうするつもりなんだい。わかり切った事じゃないか。いつまでも、川で泳いでいるつもりなのか。帰るより他は無いんだ。元の生活に帰り給え。僕は忠告する。君は、自分の幼い正義感に甘えてい..