記事「太宰治」 の 検索結果 915 件
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乞食学生 第3回(7)「それじゃ君は、映画の説明が出来るかね?」少年と私とは、先刻から、視線を平行に池の面に放って、並んで坐ったままなのである。 「映画の説明?」 「そうさ。娘が、この春休みに北海道へ旅行に行って、そう..
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乞食学生 第3回(6)「ほのかな恋愛かね。」私は、いい加減な事ばかり言っていた。 「ばか言っちゃいけない。」少年は、むきになった。「僕には、プライドがあるんだ。このごろ、だんだんそいつが、僕を小使みたいに扱って来たんだよ..
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乞食学生 第3回(5)「言ってみたって、どうにもならんけど、このごろ僕は、目茶苦茶なんだよ。中学だけは、家のお金で卒業できたのだけれど、あとが続かなかったんだ。貧乏なんだよ。僕は数学を、もっと勉強したかったから、父に無断で..
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乞食学生 第3回(4)「秩序って言葉は、素晴しいからなあ。」少年は、私の拒否を無視して、どんぶりを片手に持ったまま、ひとりで詠嘆の言葉を発し、うっとりした眼つきをして見せた。「僕は、フランス人の秩序なんて信じないけれど、強..
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乞食学生 第3回(3)少年は、くすと笑って、それから素直に鼻をかんで、 「なんと言ったらいいのかなあ。へんな気持なんだよ。親爺《おやじ》を喜ばせようと思って勉強していても、なんだか落ちつかないんだよ。五次方程式が代数的に..
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乞食学生 第3回(2)その時には、私は、ただ困った。何事も知らぬ顔して、池のほうへ、そっと視線を返し、自分の心を落ちつかせる為に袂から煙草《たばこ》を取出して一服吸った。 「僕の名はね、」あきらかに泣きじゃくりの声で、少..
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乞食学生 第3回(1)茶店の老婆が、親子どんぶりを一つ、盆《ぼん》に捧げて持って来た。 「食べたら、どうかね。」 少年は、急に顔を真赤にして、「君は? 食べないの?」と人が変ったようなおどおどした口調で言って、私の顔..
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乞食学生 第2回(9)私は、溜息をついた。なんと言われても、致しかたの無いことである。私は急に、いやになった。こんなに誇りを傷つけられて、この上なにを少年に説いてやろうとするのか。私は何も言いたくなくなった。 「君は、学..
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乞食学生 第2回(8)茶店に到着して、すなわち床几《しょうぎ》にあぐらをかいて、静かに池の面に視線を放ち、これでよし、と再び残忍な気持でほくそ笑んだところ迄は上出来であったが、それからが、いけなかった。私がおしるこ二つ、と..
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乞食学生 第2回(7)若い才能と自称する浅墓《あさはか》な少年を背後に従え、公園の森の中をゆったり歩きながら、私は大いに自信があった。果して私が、老いぼれのぼんくらであるかどうか、今に見せてあげる。少年は、私について歩いて..
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乞食学生 第2回(6)私も危く大笑いするところであったが、懸命に努めて渋面を作り、 「ごまかしては、いかん。君は今、或る種の恐怖を感じていなければならぬところだ。とにかく、僕と一緒に来給え。」ともすると笑い出しそうになっ..
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乞食学生 第2回(5)見ると、彼は、いつのまにやら、ちゃんと下駄をはいている。買って間も無いものらしく、一見したところは私の下駄より、はるかに立派である。私は、なぜだか、ほっとした。救われた気持であった。浅間《あさま》しい..