記事「太宰治」 の 検索結果 922 件
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乞食学生 第3回(2)その時には、私は、ただ困った。何事も知らぬ顔して、池のほうへ、そっと視線を返し、自分の心を落ちつかせる為に袂から煙草《たばこ》を取出して一服吸った。 「僕の名はね、」あきらかに泣きじゃくりの声で、少..
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乞食学生 第3回(1)茶店の老婆が、親子どんぶりを一つ、盆《ぼん》に捧げて持って来た。 「食べたら、どうかね。」 少年は、急に顔を真赤にして、「君は? 食べないの?」と人が変ったようなおどおどした口調で言って、私の顔..
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乞食学生 第2回(9)私は、溜息をついた。なんと言われても、致しかたの無いことである。私は急に、いやになった。こんなに誇りを傷つけられて、この上なにを少年に説いてやろうとするのか。私は何も言いたくなくなった。 「君は、学..
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乞食学生 第2回(8)茶店に到着して、すなわち床几《しょうぎ》にあぐらをかいて、静かに池の面に視線を放ち、これでよし、と再び残忍な気持でほくそ笑んだところ迄は上出来であったが、それからが、いけなかった。私がおしるこ二つ、と..
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乞食学生 第2回(7)若い才能と自称する浅墓《あさはか》な少年を背後に従え、公園の森の中をゆったり歩きながら、私は大いに自信があった。果して私が、老いぼれのぼんくらであるかどうか、今に見せてあげる。少年は、私について歩いて..
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乞食学生 第2回(6)私も危く大笑いするところであったが、懸命に努めて渋面を作り、 「ごまかしては、いかん。君は今、或る種の恐怖を感じていなければならぬところだ。とにかく、僕と一緒に来給え。」ともすると笑い出しそうになっ..
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乞食学生 第2回(5)見ると、彼は、いつのまにやら、ちゃんと下駄をはいている。買って間も無いものらしく、一見したところは私の下駄より、はるかに立派である。私は、なぜだか、ほっとした。救われた気持であった。浅間《あさま》しい..
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乞食学生 第2回(4)「ああ、陸の上は不便だ。」少年はアンダアシャツを頭からかぶって着おわり、「バイロンは、水泳している間だけは、自分の跛《びっこ》を意識しなくてよかったんだ。だから水の中に居ることを好んだのさ。本当に、本..
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乞食学生 第2回(3)「怒ったのかね。仕様がねえなあ。弱い者いじめを始めるんじゃないだろうね。」 言う事がいちいち不愉快である。 「僕のほうが、弱い者かも知れない。どっちが、どうだか判ったものじゃない。とにかく起きて..
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乞食学生 第2回(2)少年は草原に寝ころび眼をつぶったまま、薄笑いして聞いていたが、やがて眼を細くあけて私の顔を横眼で見て、 「君は、誰に言っているんだい。僕にそんなこと言ったって、わかりやしない。弱るね。」 「そうか..
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乞食学生 第2回(1)決意したのである。この少年の傲慢《ごうまん》無礼を、打擲《ちょうちゃく》してしまおうと決意した。そうと決意すれば、私もかなりに兇悪酷冷の男になり得るつもりであった。私は馬鹿に似ているが、けれども、根か..
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乞食学生 第1回(6)「ちえっ、外国人の名前だと、みんな一緒くたに、聞いたような気がするんだろう? なんにも知らない証拠だ。ガロアは、数学者だよ。君には、わかるまいが、なかなか頭がよかったんだ。二十歳で殺されちゃった。君も..