記事「掌編小説」 の 検索結果 41 件
-
おはなし『湯呑みの中』京田辺の知人宅を訪ねた。 客間でお茶を頂いた。湯呑み茶碗を手にしただけで、青々とした香りに包まれた。口にせずとも良い茶であるのは分かる。そういえば、この辺りは玉露の産地であった。 ての..
-
高速道路男は手を挙げてタクシーをつかまえる。 行き先を告げ、急いでいるので高速を使ってくれ、と運転手に早口で言う。 運転手はスムースなハンドルさばきで混雑する街中を巧みにすり抜け、造作もなく高速道路..
-
家畜家畜は激怒した。粗悪な餌に、劣悪な環境に。 月のない夜、家畜たちは闇に乗じて牧場から逃げ出した。 我々は楽園を目ざすのだ。 滑り出しこそ意気軒高、解放感に満ち溢れ、足取りも軽かったも..
-
ガラ・ルファ彼の部屋の水槽には見たことのない小さな魚がたくさん泳いでいた。 「ねえ、これなんて魚?」 わたしが訊ねると、彼はそっけなく、ガラ・ルファ。と答えた。 二人ともあまりお腹は空いていなか..
-
手紙さみしい。彼女はひとことだけ記した手紙をガラス瓶に入れて海に投げた。 ちょうどひと月後に返事が届いた。ガラス瓶の中に閉じ込められた黄ばんだ羊皮紙には、僕もさみしい。とだけ書かれていた。それから奇..
-
入社式右を見ても左を見ても宇宙服姿の者ばかりだった。 このだだっ広い会場の中で、スーツを着ているのは、ただおれ一人だった。 全身白ずくめの宇宙飛行士たちがおれのことをじろじろと見る。スモークのかか..
-
もぐもぐずっと給食を食べていた。給食の時間内には食べ終わらなくて、昼休みになって、男の子たちが外に遊びに行ったり、女の子たちが輪になっておしゃべりをしたりしているのに、わたしはまだ黙々と給食を食べている。チ..
-
人間は疲れる人間は疲れる。だからおれはねこになった。なるほど。のらねここーすをごきぼうですか。のらねこはいっけんきままきらくにくらしているようにみえるでしょうがああみえてなかなかたいへんなのですよ。せんえつなが..
-
しっぽ妻はママ友たちとの昼食会に出かけている。必然的に私が娘を見ることになる。 べったりと張りついているのも何なので、書斎で書きものをしながら見ることにする。 見るというよりは、目の届くところ..
-
a milkman久しぶりに親父と話をした。 夢の中で。 枕元の時計を見ると7:36。下腹部からせり上がってくる尿意に促されるようにしてベッドから降りる。それにしても、ほんの数分前のことだというのに、..
-
掌編小説:春昼『老人の死体を目にして』今、目の前に三人の老人の死体がある。誰が手を下した死体かはわからない。自殺かもしれない。確実なのは、僕が彼ら三人を殺したのではないということだ。けれど、本当にそう言えるだろうか。僕が直接彼ら三人の命を..
-
「新外国人」今シーズンから全面改装され、 最新の設備を備えた東京ドーム。 オープン戦を一週間後に控え、 選手達の動きにも熱が入る。 バッティングケージの後ろではユニフォーム姿の男が二人、 腕組み..