記事「日経新聞」 の 検索結果 2469 件
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『登山大名』(78~83)歩き疲れて立ち往生したとき、前方に光が見えた。行灯をかこんで、七、八人の老若男女が車座になっている。 だれかがわたしに気づいて、あッと声をもらした。すると束ねた髪を背に垂らした一人が立ち..
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『登山大名』(72~77)帰路は五人組と平作をひきつれての下山だ。 「そのほうがヨハネとは知らなんだわ。蛇之助によれば、切支丹どもにとっては大恩人とか」 藤兵衛は動じなかった。 「恩人というなら、光顕院さまと..
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『登山大名』(65~71)第三章 空井戸 「今一度たずねる。ここでなにをしておる」 「なに、と、仰せになられますのか。用事があって山中へ入ったとでも? 七里田も危ううなったゆえ、やむなく山へ逃げました」 蛇之助は語..
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『登山大名』(59~64)第三章 空井戸 「山中へ逃げたというが、あの娘、いくらなんでも、かようなところにおるとはのう……」 「おそらく、常人では、ないのでしょう」 衣笠平作は早くも息があがっていた。 「殿。お御..
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『登山大名』(53~58)父が参勤で江戸へ出立したあとも、わたしは岡へとどまるよう命じられた。藩主が留守のあいだの政は、家老の合議制で進められる。 一雲には気立ての良い妻女と、佐代の他にも兄弟姉妹がいた。 佐..
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『登山大名』(41~46)伏見の中川邸は、伏見城と、城の西に広がる城下町とのあいだに建ち並ぶ武家屋敷のひとつで、北方の土塁の外側にある。 わたしは四歳まで、この屋敷内の奥御殿で養育されていたという。記憶はまったく..
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『登山大名』(32~33)「井田筋の村々はどうなっておる? 逃散した者たちは帰参したか」 「大半はもどって参りました。府内へ逃げた者たちも、正月までにはほとんどが・・・・・・」 「いったいどこのどいつが、かような戯..
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『登山大名』(26~31)藤兵衛は、困惑したように、わたしの様子をうかがている。 「捜さずとも、よろしいので?」 「どのみちこの足だ」 「実は、心当たりがござる」 「ほう、いかような・・・・・・」 「まだ定..
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『登山大名』(19~25)敷居際で侍女の声がした。 「御前さまにございます」 「お加智か。入れ」 お加智は床の近くまで膝行して、困惑顔でわたしの足を眺めた。 「お災難、心よりお見舞い申し上げます」 お加..
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『登山大名』(13~18)「お御足をくじかれたとうかごうてござる。さぞや難儀にございましたろう。さ、こちらへ」 玄関で待ちかまえていた家老の古田藤兵衛が、泣きそうな顔でわたしを迎えた。 古田家は、わたしの曽祖父..
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『登山大名』(7~12)「殿、ようご無事で・・・・・・」 「曲者は身どもが退治つかまりりました」 宇目と伝熊は得意そうである。 「それにしても、なにゆえ殿を・・・・・・。第一、殿がここにおることがどうしてわか..
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『登山大名』(1~6)第一章 娘狩り 崖の上のアカマツの大木の陰にいるわたしに、娘は気づいていないようだった。連れがいるようだ。 竹籠を背負っているところをみると、キノコでも集めていたのか。 近隣の娘である..
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